教科書

支持体と画地について





古い時代の板絵は反りを防ぐ為に、分厚い無垢板の裏に入念に桟が付けられていましたが、現代の合板や繊維板は、無垢材に比べ狂いが少なく、薄く軽い支持体を作ることが出来ます。小品には厚手の板を用い、15号くらいより大きな作品にはなるべく薄い板を用意し、大きさに即したパネル加工(桟付け)を行いましょう。



<ベニヤ合板>


原木を巨大な鉋(かんな)のような機械で薄い単板に加工し、接着剤で複数枚張り合わせた物です。

日本ではラワン材とシナノキ材が原料として圧倒的に多く用いられ、絵画の支持体にはシナノキ材によるもの(シナベニヤ)が適しています。

(長所) 原木の持つ導管等の組織を保持するので、後述2種と比べ比重が軽く、3層構造の薄手の物は大作の為のパネルに有利です。

(短所) 化粧版(表層の単板)には通常継ぎ目があり、水性地を施した場合、亀裂の原因となります。小品の場合は継ぎ目を避けて切断し、大作の場合は継ぎ目部分または全体を薄手の布等で保護するか、片面が継ぎ目の無いワンピース化粧版の物を用意する必要があります。



<木質繊維版(ファイバーボード)>


パルプ状に解きほぐされた木質繊維を押し固めた物で、その密度により、

(1)硬質繊維版(ハードボード)密度0.8g/cm3以上

(2)中質繊維版(MDF=medium density fiberboard )密度0.4~0.8g/cm3

(3)軟質繊維版(インシュレーションボード)密度0.4g/cm3以下

の3種類に分類されており、強度の面で(1)と(2)が絵画の支持体に適しています。

(長所) ベニヤ合板のような継ぎ目が無く、表面が均一なので、地塗り前の布張りなどの処理が必要ありません。

(短所) 原料の解繊と熱圧という工程を経るため、ベニヤ合板に比べ比重が重くなります。



<パーティクルボード>


木材を小片に砕き、接着剤と共に押し固めた物です。

(長所) 木質繊維版同様継ぎ目が無く、表面が均一で、同じ厚さで比較すると木質繊維版よりも軽量です。

(短所) 比較的厚手の製品なので、パネル加工しない小品に用途が限られます。


布(キャンバス)





亜麻繊維の目の詰まった物(絵画目的に織られたもの)が適しており、昔から使われています。描画以前の処理に大変手間がかかりますが、前膠或いは地塗りまで済ませたロールキャンバスや、木枠に張った物が豊富に流通しています。

(長所) 大画面を非常に軽く作ることが出来ます。また、織目によるテクスチャーも魅力になり得ます。

(短所) 布のたわみが損傷の原因になるため、水性地等の柔軟性に乏しい地塗り層には向きません。

混合技法を含む油彩画のための、描画に先立つ支持体の表面処理

支持体が油絵具を受け止めるには、描画に先立って然るべき前処理が行われなければなりません。


目止め





 木板や布等、多孔質な支持体に描く場合は、支持体の吸収力を調整するため、膠等による目止め(前膠、サイジングとも言う)が必要です。支持体にとって多孔質な表面は、上に来る材料の「食い付き」を確保する意味で大切な性能のひとつですが、食い付きとは一部が浸透する事であり、描画中に起こる激しい過吸収(過剰な吸収)は描き心地のもたつき感を招き、完成後、ゆっくりと継続する過吸収は接着成分の喪失による描画層の脆弱化と剥落を引き起こす事があります。

 また目止めは、また描画材の化学的影響(主に油絵具の酸化)から支持体を保護する役割をも担っています。

金属板に関してはこの観点から樹脂溶液の塗布が必要です。


地塗り





 目止めのみでも描画に入ることは出来ますが、通常白い地塗りが施されます。

地塗りの目的はまず物理的に支持体表面の凹凸を無くしたり、逆に刷毛目等を利用し凹凸を付加すること、また視覚的には白い地塗りは透明な絵具層を発色させる反射板となります。


水性地





 膠やカゼイン、澱粉糊などを糊料とする、油分を含まない画地の事を一般に、その性質を指して「水性地」、「吸収地」、「非油性地」、「アブソルバン」等と呼び、或いは加えられる充?材の名前から単に「石膏地」、「白亜地」等と呼んだりします。

 油分を含まないため油彩画やテンペラ画に用途が限定されず、水彩絵具や乾式描画材(鉛筆、コンテ、パステル、等)の画地としても優れています。反面、塗膜の質が油性地と比較して柔軟性に乏しい為、木枠に張ったキャンバス等に使用するとごく薄層での塗り以外は亀裂や剥落の危険性が高まり、支持体については、たわまない素材であることが求められます。

 ヨーロッパにおいて壁画から板絵へとボリュームが移っていった時代に行われ始めた地塗りで、漆喰壁を模した様なカラリとした質感が、塗膜の脆さを補って余りある魅力で、現在も多くの画家が水性地の上に描いています。


乳濁液地





 水性地の地塗り材に、乾性油や合成樹脂溶液等を滴下しながら撹拌し乳化させた地塗り剤を用います。

 水性地と油性地の中間の性質を持つため、「半吸収地」、「半油性地」、「中性地」、「エマルジョン地」とも呼ばれます。水性地に比べ若干柔軟性を増すため油分を多めに添加されたものはキャンバスと相性がよく、また少量の油分添加でも塗膜乾燥時の収縮を緩和するため、板地への用途においても、反りを少なくするという利点があります。


油性地





 亜麻仁油と鉛白顔料による、キャンバスの為の伝統的な地塗りで、「非吸収地」、「セリューズ地」とも言います。

大変堅牢で、白く明るい地となります。


水性合成樹脂分散液地





 炭酸カルシウムと酸化チタン顔料がアクリルポリマーで練り合わされた物が「アクリルジェッソ」という商品名で市販されています。

塗膜は大変堅牢かつ柔軟でどんな支持体にもしっかり定着しますが、研磨が困難です。地塗り済みキャンバスの廉価品はこれが塗られています。

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