教科書

素材について

素材知識 ~物質としての絵画を構築する3大要素~

 当たり前の話ですが、絵画の動機は描き手によって様々で、日々の暮らしや思考の中のあちらこちらから見出されては、色々な意味をまとって(まとわされて)表出して来るようです。いきおい絵画は時代を反映し、社会を反映し、何より描き手自身を投影し、精神的な視点から見ると1枚の作品の中には数々の要素がひしめいています。
では物質として見た時、絵画とは何でしょうか。その組成を役割別に分解すると、
1.支持体(しじたい)
2.顕色材(けんしょくざい)
3.媒剤(ばいざい)
幾つかの例外を除き、主に以上3つの要素から構築されている事が分かります。この3大要素の役割、そしてそれぞれから枝分かれする選択肢すなわち諸材料の特性に対する知識は、制作において、その進行速度や作業性、また作品の物質感等といった側面からの改善を望む時のヒントになり得ます。

支持体

 支持体とは絵画の土台であり、同義語として「基底材」という呼ばれ方もします。
フレスコ画の支持体は建物の構造体と壁の心材であり、油彩画の支持体には木板そして木枠に張られた亜麻布が圧倒的に選ばれてきました。水彩画においてはいうまでも無く紙が最も一般的です。このように一分野として確立された絵画技法にはそれぞれ相性のよい支持体というものがある様です。
※代表的な絵画の支持体→木板、紙、木枠に張られた布、金属板、ガラス板、石版等

顕色材

 顕色材とは発色を担う材料で、微細な粒子のことを言います。
 顕色材はその粒子の細かさの程度によって顔料と染料に分けられ、液体と混ぜ合わせた時、分散するだけで暫くすると沈殿するレベルの粒径を持つものが顔料、液体に完全に溶解してしまうレベル(1ナノメートル以下)の粒径の物が染料ですが、絵画材料としてはほぼ顔料のみが用いられ、染料は染色や印刷に用いられます。
 染料は顔料以上に魅力的な発色を示す品種が数多く存在しますが、粒子の細かさゆえの透光性に拠って立つ発色の鮮やかさは光の影響を強く受け、著しい退色を起こす物もあります。
 また絵画制作では当たり前の事である「塗り重ね」を行うには染料は粒子が細か過ぎ、にじみが起きてしまうため、絵画に求められる最低限の不変性が得られないのです。
 但し一部の染料は、体質顔料に沈着させることで顔料となり(レーキ顔料という)、絵画目的にも合致します。
※代表的な顔料
塩基性炭酸鉛、二酸化チタン、酸化亜鉛等(白色)
木炭、煤煙、砂鉄等(黒色)
天然土、酸化鉄等(不透明または透明な褐色)
コバルト化合物(半透明な紫色から鮮青色を経て緑色まで)
合成ウルトラマリン(透明な紫色から深緑色まで)
酸化クロム、水酸化クロム(不透明緑と透明緑)
カドミウム化合物(不透明な黄緑色から朱色を経て赤紫色まで)
各種合成有機顔料(主に透明な各色相)

媒剤

 同時に幾つもの役割を担うため、色々な呼び方があり意味合いも微妙に異なるのですが、まず第一に、支持体と顔料を結び付ける接着剤である事をよく表しているのは、「定着剤」、「糊料」といった呼び方でしょう。
 第二に、粉体である顔料は使用に先立ち、描画に適した状態に加工されますが、固形の乾式描画材(色鉛筆等)では顔料は微量の形成剤と共に練り固められ、湿式描画材(絵具のことです)においては毛筆による表現に都合が良い様に、硬過ぎず流動性に過ぎない、適当な粘度を目指し、練り合わされます。この様に、顔料を絵具たらしめる為の液体という意味で使われる呼び名としては、展色剤が挙げられます。
 第三に、媒剤という呼び方は正に、皮膜となって顔料粒子を包み込み、顔料との屈折率の差異若しくは近似によって発色や透明感、不透明感を決定付ける役割を表しています。
 ところで水彩絵具やアクリル絵具、テンペラ絵具、油絵具等、色々な種類の絵具が知られていますが、これらに用いられる顔料は大部分が共通しており、およそ絵具種の違いは展色剤の違いであると言えます。
※代表的な媒材
油絵具の為の媒剤
乾性油(亜麻仁油、ケシの実油、紅花油等)
天然軟質樹脂(ダンマル、マスチック等)
合成樹脂(油溶性アクリル、アルキド、ケトン等)
揮発油(テレピン、ペトロール等)
その他の媒剤・・・膠、カゼイン、アラビアガム、トラガントガム、澱粉糊、鶏卵、水溶性合成樹脂分散液等

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